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大阪高等裁判所 昭和41年(う)162号 判決

被告人 東亜通商株式会社 外一名

主文

原判決中被告東亜通商株式会社(以下被告会社と略称する)に関する部分を破棄する。

被告会社を罰金八〇万円に処する。

香港製プラスチツク造花六三一箱の換価代金三三万円(大阪地方検察庁昭和三九年領第五七一五号)は、被告会社から没収する。

被告会社から金一、八八七万九〇二四円を追徴する。

当審における訴訟費用は被告会社の負担とする。

被告人小山和夫の本件控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は弁護人岡利夫作成の控訴趣意書及び控訴趣意書訂正と題する書面に記載されているとおりであり、これに対する検察官の答弁は、大阪高等検察庁検察官検事野崎賢造作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意第一点の第一について

論旨は、原判決は原判示第一の関税逋脱罪につき課税価格を一、三九六万三一〇円と認定しているが、右価格は、原判示の如く被告会社がプラスチツク造花を輸入するに当り、その取引商社たる香港所在のユナイテツド・エシア・トレーデイング・カンパニーの見積契約価格を基礎として算定されたものであるところ、被告会社と右商社との間には右契約価格を一律に五パーセント値引するとの契約が成立し、五パーセント値引した取引価格で本件輸入がなされたのであるから、課税価格は一、三九六万三一〇円でなく、その五パーセント引である一、三三一万六、五四九円とするのが正当である、というのである。

よつて案ずるに、原判決挙示の関係証拠並びに証拠物たる書面を総合すると、原判示第一の各輸入取引に関する輸入申告書並びに通関の際提出されたインボイス(インボイスのうちRと記入されたものを除く)には、実際の契約価格より三〇パーセント乃至四〇パーセント低い価格が記入されているが、(いわゆる低価申告)右インボイスとは別に前記商社から被告会社宛送付されたインボイス(R)には右低価申告価格より高い実際の契約価格が記載されており、そのうち、原判示第一の別表1、2号を除くその他の取引についてはインボイス(R)の価格より五パーセント値引した金額で決済されることになつていたことが認められる。(右五パーセントの値引については右別表4号、7号乃至11号、14号、15号、17号、18号、20号乃至22号、24号の取引では、インボイス(R)において、又別表4号、6号、12号、13号、16号、19号、23号の取引ではデビツド・ノートにおいて五パーセント値引した金額が記載されていること及び別表3号、5号の取引については、被告人小山の各質問調書並びに供述調書により認めることができる。)そして右インボイス(R)に記載されている契約価格(五パーセント値引されていない価格)により原判示第一の各取引の課税価格を算出すると、合計一三九七万六〇三三円となることが認められる。(大阪税関鑑査部、鷹柳明雄作成にかかる大阪地方検察庁稲田検事宛書面に添付の一覧表中「決済インボイス価格」の合計額、あるいは右鷹柳明雄作成の鑑定書中「鑑定価格(CIF)」の合計額がこれに当る。尤も別表4号の契約価格はインボイス(R)(当庁昭和四一年押第六七号の二の四のうち、検一の一八と符合のついたもの)によると、二〇六ポンド一シリング八ペンスとなつており右一覧表及び鑑定書中の当該価格と一致しないが、デビツド・ノート綴中のクレジツト・ノート及びクライム・ノートによれば輸入貨物の船積不足のため先方の配慮により右価格より不足荷物に相当する価格七ポンド六シリング三ペンスが差し引かれていたので鑑定書や右一覧表においても右金額を控除した一九八ポンド一五シリング五ペンスすなわち二〇万三六一円が正当な価格である旨認めたものである。)ところで原判決も課税価格を算出するに当り右と同様インボイス(R)の契約価格によつたものであることは明かであるが、原判示別表第一の1号乃至24号の「課税価格」欄記載の金額を合算すると、一、三九七万六、〇三一円となり、僅かではあるが、前記金額と二円の違いが生じることになる。これは鑑定書等によれば原判決別表第一のうち2号の取引につき決済インボイス価格を二八八、六三二円としているのに対し原判決は二八八、六三〇円と誤記したことによるのであつて、右金額は二八八、六三二円とするのが正当のように考えられるが、その誤りは大した問題ではなく、もとより判決に影響を及ぼすものではない。

そこで課税価格算出の基礎をインボイス(R)の契約価格にするか、それとも所論の如く右契約価格から五パーンセト引いた価格にするかについて以下検討を加えることとする。

わが関税定率法四条一項は、輸入貨物の課税価格の評価方法について「当該貨物の輸出の際にその輸出国において当該貨物又は同種の貨物が通常の卸取引の量及び方法によつて販売される価格に当該貨物の輸出港における積込までに要する通常の費用並びに輸入港に到着するまで要するに通常の運賃及び保険料を加えた価格とする」旨規定し、原則として到着地価格主義(いわゆるCIF価格)を採用しているのである。そして二項において「前項の課税価格は、輸入申告に際し提出された仕入書その他の書類により決定することができる場合においては、これらの書類により決定する」旨定めているところ、本件インボイス(R)の内容は、関係証拠と照合し本件取引の実態を記載したものと認めることができるから、本件課税価格の算定にあたつてもこれを基礎としてなすべきものと考える。ところで同条一項にいう「輸出国において販売される価格」とは、輸出国における通常一般の卸売価格をいうものと解すべきであるから、いわゆるダンピング価格、輸出商社と輸入商社との特殊な関係により決定された特殊卸売価格などは、課税価格の基礎となし得ないといわねばならない。そこで被告会社と香港所在のユナイテツド・エシア・トレーデイング・カンパニーとの関係についてみるに、被告人小山の大蔵事務官に対する昭和三九年一〇月一二日付、二三日付、同年一一月一八日付、二〇日付各質問調書、司法警察職員に対する同年一〇月一〇日付、二一日付各供述調書並びに検察官に対する供述調書二通を総合すると、被告人小山は昭和三二年一〇月株式会社小山商店を設立し工業薬品等の販売を営み、同会社は同三八年四月頃倒産したため同年五月輸入商社、東亜通商株式会社を設立して営業に当つていたものであるが、これより先かねてから個人的に交際のあつた中国人で前記ユナイテツド・エシアの副支配人林茂生に資金援助を依頼するため同三八年四月頃香港に渡航し同人及び同商社の支配人に資金援助を求めたところ、同人らから日本への外貨送金は困難であるが、同商社から香港製プラスチツク造花を被告会社へ輸出し、その代金の三〇パーセント乃至四〇パーセントの支払を猶予するから、実際の輸入契約価格より三〇パーセント乃至四〇パーセント低い価格の仕入書等を作成し、いわゆる低価申告による輸入手続をしてはどうかとの話が出されたので被告人小山もこの方法によることを決意するに至つた結果、低価申告に基づく原判示第一の輸入取引がなされたこと及び支払猶予を受けた残額は約半年乃至一年の間に決済することになつていたのであるが、原判示第一の別表1号、2号の取引後被告会社はユナイテツド・エシアと交渉した結果同商社においては同3号の取引以降の分について実際の契約価格からいわゆる代理店手数料の名目で五パーセント引くということになり、その意味からインボイス(R)やデビツド・ノートに実際の契約価格と同価格から五パーセント値引した金額とが記入されるようになつたことが認められる。そして被告人小山の同三九年一一月一八日付大蔵事務官に対する質問調書中「第三回目の取引から商売上の契約の五パーセントの値引をしてくれております。・・・この値引は私の会社が輸入後、売却する際に相手方会社にインボイスを見せて取引するので値引としていつておりますが、これは私の会社の利益としてユナイテツドがくれているものです」との供述記載や本件各証拠からも窮える如く被告会社と同商社とは、被告人小山と林茂生との個人的友好関係を通じ、(被告人小山は戦前上海に在住中、林と知り合つたもので、同三六、七年頃から商用でしばしば来日する同人と交際しておりも、ともと同人の資金援助を受けて被告会社を設立しようとの意図で香港に渡航したのであり、同三九年一〇月には被告会社の取締役になつてもらいその旨の登記がなされているほどである)特殊な関係すなわち被告会社は同商社からその取引について何かにつけ有利な取扱を受けていることが認められ(日本国内で同商社から香港製造花を輸入しているのは被告会社と同じく林が取締役として登記されていた東京所在の七洋通商株式会社だけである)、これらの状況から考えると、被告人小山が検察官に対し「私の方からユナイテッド・エシアに対し交渉した結果代理店手数料として五パーセントみるということになつた」旨供述しているのは、事実を述べたものと認められる。そして本件五パーセントの値引も香港における通常一般の卸売価格がそうであるから値引したのではなく、被告会社とユナイテツド・エシアとの右に述べたような特殊関係上特に同商社が被告会社に恩恵を与えるために実際の契約価格から五パーセント引いた価格で決済するという好意的な措置を施したものと認めるのが相当であるから、本件輸入貨物の課税価格算定に当つてはインボイス(R)に記載された五パーセント値引していない実際の契約価格を基礎とすべきである。されば本件五パーセントの値引が厳密の意味での代理店手数料であるか否かはともかくとして、実際の契約価格から五パーセントに相当する金額を控除しない価格を基礎として本件課税価格を算出した前記鷹柳明雄作成の書面添付の一覧表中「決済インボイス価格」欄記載の価格及び同人作成の鑑定書中「鑑定価格(CIF)」欄記載の価格は正当であり、原判決も右価格によつているのであるから、所論の如き誤りは存しない。論旨は理由がない。

控訴趣意第一点の第二について

論旨は、原判決は原判示第一の関税逋脱罪につき鷹柳明雄作成の鑑定書に記載された追徴金額一、八八七万九、九、〇二四円を被告会社から追徴しているが、これは誤りである。すなわち、本件低価申告により輸入貨物はその六〇パーセントが正規の手続により輸入され、残り四〇パーセントが関税逋脱の貨物と認められるから、関税逋脱の限度が明らかに区分可能な場合の追徴金算定は関税逋脱に該当する限度の貨物についてなされるべきである。そして右鑑定書記載の方式により追徴金を計算すると、本件輸入契約価格一、三三一万六、五四九円から正規の輸入申告額八八〇万六、四四五円を控除すれば四五一万一〇四円となるが、本件については没収さるべき貨物が一部押収されているから、それより押収物件の価格一七〇万六、七九九円を控除した二八〇万三、三〇五円が追徴対象価格となるところ、これに三五パーセントの関税九八万一、一五〇円、輸入諸費用三二万一、七三八円を加えた四〇九万二〇二円が本件の輸入原価であり、更に輸入業者の利益八一万九、七三二円を合算した合計四九二万五、九七〇円が本件の場合に追徴すべき限度である、というのである。

よつて案ずるに、関税法一一八条二項にいう「没収することができないもの又は没収しないものの犯罪が行われた時の価格」とは、逋脱に関する貨物についていえば、犯罪当時の国内卸売価格をいうのであつて、その価格とは貨物の輸出国における卸売価格に輸出港における積込までに要する費用並びに輸入港に到着するまでに要する通常の運賃、保険料のほか関税、内国消費税更に通常の卸売取引における適正利潤をも含めたものを意味するのであるところ、本件関税逋脱は被告会社がユナイテッド・エシアから香港製造花を輸入するに当り、例えば一〇〇グロスの造花につき実際の契約価格が日本円に換算して一〇〇万円である場合(一グロスにつき一万円)に、その価格を六〇万円(一グロスにつき六千円)である如く低価で輸入申告をなし、申告価格六〇万円に対する関税を納付して一〇〇グロスの造花を輸入し、その差額四〇万円に対する(一グロスにつき四千円)相当関税を逋脱したという方法で二四回に亘り犯行を行つたものであつて、二四回に亘る輸入貨物について、関税を納付した貨物の数量と納付金額は判明しているのであるが、右納付関税額は数量を偽つた場合と異なり低価申告額を基礎として算出した本件全貨物に対する関税として支払われたものの総額であり、輸入貨物の一部分について正当な課税価格により算定して関税を納付した額ではない。従つて其の余の部分につき全く関税を免れた場合に当らないことは明かである。それ故に関税逋脱の限度が明かに区分可能であるからといつて、所論の如き計算方法で追徴の対象を算出して、あたかも、納付関税額を正当な関税額によつて割り出した輸入貨物の数量が正規の手続によつて輸入された貨物であり、その余の貨物は関税を逋脱した貨物であるということは明かに右の事実に反する見解といわねばならないから此の点に関する所論には賛成できない。してみれば本件輸入貨物全部に対する正規の関税額より納付関税額を控除した額について、輸入貨物全部の数量に応じ逋脱罪は成立し、その貨物全部が没収または追徴の対象となることはいうまでもない(所論の如く本件貨物の契約価格に対する申告価格のパーセンテイジが、直ちに本件貨物中正規の関税を納付したものと、関税を逋脱したものとのパーセンテイジにはならない)。

そこで本件貨物に対する鑑定人鷹柳明雄の鑑定について検討するに、同人作成の鑑定書及び大阪地方検察庁稲田検事宛書面並びに当審における証人鷹柳明雄の供述を総合すると、本件輸入貨物である造花の総通関数量七、六二六ダロスのうち押収された一、〇六〇グロス四八分の五を除く六、五六五グロス四八分の四三(売却処分したため没収できない)に対する追徴金額は一、八八七万九、〇二四円であるが、右計算の基礎となる課税価格は原判示第一の別表3号乃至24号についてそれより五パーセント引とし、この点むしろ被告会社に有利な取扱をしているし(此の点被告人のみの控訴にかかるから敢えて訂正しない)、輸入諸経費の額及び利潤率も適正であり、関税も追徴対象分に対するそれであることが認められるから、追徴金算定の方式に所論の如き不当な点はない。次に所論は右鑑定は昭和三九年八月三一目蔵関第一、一〇四号通達を根拠として計算されたものであるところ、本件違反事実のうち右通達以前のものに対して適用することは失当であると主張する。しかしながら、冒頭に述べた逋脱貨物の国内卸売価格は右通達施行の前後に亘つて別異な取扱を受ける性質のものではなく、又当審証人鷹柳明雄の供述によつても本件追徴金の算定に関し右通達の前後によつて計算方法を異にしていたものとは認められない。ただ、ここで考えさせられることは、本件貨物全部について、前段認定の如く被告会社としては、低価申告に基き、正規の関税額より少額とはいえ既に関税を納付しているのであるから、これを違反物件として没収すると、物件の所有権を失う上に、既に納付した関税額に相当する損害を被むることになり、全く関税を納めなかつた場合に比し酷であるとの感がする。しかし、これを是正するため、没収の場合において既に納付した関税を返還しなければならないという規定もないし、また規定がなくとも条理上、返還しなければならないとすれば、没収物件の競売による換価額が納付した関税額に満たないときに没収によつて国家が不当に損害を負うことになる場合のこと等を考え合わせると酷ではあるが右は低価申告という不正な手段をとつたことによるものであつて止むを得ないものと断定せざるを得ない。そして追徴は没収することが出来ない場合に、これに代わるものとして犯罪が行われた時の価格に相当する金額を犯人から徴収するのであつて、右価格の算定に前段説示のように正規の関税額を加えるのであるから、この点から考えると本件の追徴は結果において既に納付した関税額だけ多く徴収するのと同一に帰することになるが、没収の場合において既に納付した関税を返還することができないと解する以上、没収に代わる追徴の場合において追徴金から既に納付した関税額を差引かねばならぬとすると、没収の場合と取扱上の矛盾を生じることとなり、これを区別して取扱う理由に乏しく、特別の規定がない限りこれまた止むを得ないものといわねばならない。

従つて原判決が被告会社から前記金額を追徴したことは正当であり、論旨は理由がない。

控訴趣意第一点の第三について

論旨は、原判示第三の外為法違反に関し原判決は、林茂生こと林茂栄を非居住者と認定し、被告人小山が被告会社の業務に関してなしたものとしているが、いずれも誤りである。すなわち林茂生こと林茂栄は日本に居所を有する居住者であり、又原判示第三の支払行為も被告人小山が個人の資格でなしたものである、というのである。

そこで先ず林茂生こと林茂栄の居住性について検討するに、本件記録に現われた証拠によると、同人は外為法上非居住者であると認めるのが相当である。すなわち原判決挙示の関係証拠並びに法務省入国管理局登録課作成の調査書によると、同人は一九二四年五月二二日生れの香港に居住する中国人(男性)であり、香港所在のユナイテツド・エシア・トレーデイング・カンパニーの副支配人でもあるところ、昭和三七年五月以降同三九年四月まで商用のためしばしば来日し、その都度いずれも日本政府から一八〇日の在留許可を受け日本に滞在していたものであるが、(現在は香港に居住)在日中は殆んど内妻である三上文江が居住するアパート(東京都新宿区袋町一五番地あかつき荘、ついで中野区橋場町五〇番地クラウンハウス)に同居し、日本で収入を得ることもなく香港から持参した資金で生活していたことが認められ、これらの点から考えると、同人はユナイテツド・エシアの在日駐在員たる資格で来日し、その間内妻方に宿泊していたものといえるから、外為法六条一項五号にいう「本邦内に住所又は居所を有する」場合に当らず、又被告会社及び七洋通商株式会社の登記簿謄本によれば林茂生(林茂栄の別名)及び林茂栄が取締役として登記されてはいるが、同人が被告会社の取締役として登記されたのは昭和三九年五月であり(被告人の大蔵事務官に対する同三九年一〇月二三日付質問調書、記録一六九丁)、七洋通商の設立は同三九年六月であつて、いずれも原判示第三の犯行後であるのみならず、右犯行当時同人が本邦内にある事業体に勤務していたと認めるに足る資料はない。されば居住性の判定基準を定めた昭和三五年日為管甲第一、一一二号通牒(同年三月一五日より施行。従前の昭和二六年日為管甲第二五七号は廃止され、右通牒に代わつた)の適用上においても同人が居住者であるとは認められないし、又居住者認定を受けた事実はない。同人が昭和三七年五月入国の際外国人登録申請をしたとか、内妻三上文江のアパートに同女のほか林茂生の標札が掲示されているとかの事情は右認定を妨げるものではなく、又同人を非居住者として認定したところで、それが原判示第二の一の1の事実と矛盾するとはいえない。従つて原判決が林茂生こと林茂栄を非居住者と認めたのは正当であり、この点に関する論旨は理由がない。

次に職権をもつて原判示第三の事実について調査するに、昭和四〇年五月二七日付起訴状記載の被告人名及び公訴事実によると、原判示第三の外為法違反の事実については被告会社に対し起訴がなされていないことが明らかであるところ、原判決は罪となるべき事実の冒頭において「被告人小山和夫は被告会社の業務に関し」と記載しているから、このことから考えると右の記載は判示第一、第二、第三の全事実にかかつている如くみられ、ただ判示第三において「被告人は云々」との記載がある点からみると、必ずしもそうともとれず明かな誤記でないかと考えられないこともないが、更に法令の適用をみると「判示第二、第三の各所為は外国為替及び外国貿易管理法第二七条第一項、第七〇条第七号(被告会社に対し第七三条)」と判示しているところから考えると、右の記載が誤記であるとして一がいに片付ける訳にはいかず、右第三の事実についても被告人小山と被告会社の両者を審判していると認めざるを得ない。そうだとすると原判決は被告会社に対し「審判の請求を受けない事件について判決をしたこと」の違法があるから、原判決中被告会社に関する部分は破棄を免れない。

ところで原判決は原判示第三の罪が原判示その余の各罪と併合罪の関係にあるものとし、被告会社に対し一個の刑を言い渡しているから、原判決中被告会社に関するその余の部分も量刑不当の論旨に対する判断をまつまでもなく破棄を免れない。また第三の事実に関する挙示の証拠によると第三の事実は被告人小山が被告会社の業務に関してなした犯行ではなく、被告人小山個人の犯行であることが認められるから被告人小山についても誤りがあるといえるのであるが、右の誤りは判決に影響しないものと解し、破棄の理由としない。

控訴趣旨第二点、被告人小山に対する量刑不当の主張について

しかしながら、本件各犯行の罪質、態様殊に関税逋脱金額並びに支払又は支払受領の金額等に照らすと原判決は被告人小山に対し罰金刑はこれを科せず、懲役刑についてもその執行を猶予していることであり、その他所論の点を検討しても被告人小山に対する原判決の刑は重過ぎるとは考えられない。論旨は理由がない。

よつて被告人小山の本件控訴は刑事訴訟法三九六条によりこれを棄却することとし、(なお原審は被告人小山のために取り調べた証人細永宏に支給した訴訟費用の裁判を遺脱しているが、同被告人の関係で破棄しないので、負担を命じない。)被告会社につき同法三九七条一項、三七八条三号後段、四〇〇条但書により原判決中被告会社に関する部分を破棄したうえ更に判決することとし、原判決が挙示の証拠によつて認定した原判示第一、第二の各事実に原審が原判示第一、第二の各所為の適用法令として挙示した原判示各法条及び刑法四五条前段、四八条二項、関税法一一八条一項、二項当審の訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 笠松義資 佐古田英郎 荒石利雄)

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